ネット中傷対策 – 企業と個人事業主が知っておくべきこと
今回は、近年増加するネット中傷と、その対策についてお届けします。
ネット中傷は、中小企業の経営者や個人事業主の事業運営に直接大きな打撃を与えることも少なくありません。
万が一にもそのような被害を受けた際、迅速に対応するための法的な対応策をお伝えします。

近年、事業会社や個人事業主に対するネット上での中傷やカスタマーハラスメント(カスハラ)的な炎上が増加しています。
インターネット上の違法・有害情報に関する相談窓口である、違法・有害情報相談センターで受け付けた相談件数は、令和5年度で過去最多となりました。
なかでも名誉毀損など、会社や個人の評判に大きな影響を与える投稿による相談が大半を占めています。


参考:総務省「令和5年度インターネット上の違法・有害情報対応相談業務等請負業務報告書(概要版)」から

ネット中傷が増加している背景には、SNSの普及や匿名性の高さが挙
げられます。
誰でも簡単に意見を発信でき、匿名であるがゆえに無責任な発言が増えています。
例えば、飲食店のレビューサイトにおいて、根拠のない批判的な口コミが広がり、売上が激減するケースや、特定の企業に対する誹謗中傷がSNSで拡散され、ブランドイメージが損なわれる事例が見られます。
これにより、新規顧客の獲得が難しくなり、既存顧客の信頼も失われる可能性があります。
また、ネット中傷に対処するために、企業が法的対応や広報対策に資金や人員を割かざるを得なくなり、経営資源が圧迫されるという悪影響もあります。

しかし、ネット上の中傷に対しては、法的な対応が可能です。
日本では、「プロバイダ責任制限法」や刑法上の「名誉棄損罪」「侮辱罪」「業務妨害罪」など、インターネット上での誹謗中傷に対する法律が整備されています。
特に重要なのが、「情報削除請求制度」「発信者情報開示請求制度」です。
この制度は、インターネット上での誹謗中傷投稿の削除や投稿した人物の情報を開示請求することができるもので、被害を受けた企業や個人事業主が訴訟を起こすための重要な手段となっています。
このうち発信者情報開示請求制度では、プロバイダやサイト運営者に対して、投稿者の氏名や住所、IPアドレスなどの情報を開示するよう求めることができます。
ただし、この手続きは複雑であるため、専門知識を持つ弁護士への相談を早期に行い、迅速にかつ適切に法的手続きを進めることが重要です。
それが結果として、中傷被害からの早期回復に繋がることになります。

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求の手続きは、以下の流れで進行します。
まず、中傷された側がプロバイダやサイト運営者に対して、投稿者の情報開示を求めます。
この際に提出する必要な書類には、
- 投稿内容のスクリーンショット
- 被害が及んだことを示す証拠書類
- 法的根拠を記した請求書
などがあり、証拠として利用できる情報を確実に残すことが必要です。
但し、プロバイダは発信者のプライバシーや表現の自由の尊重の観点からこの請求に応じることは稀です。
そこで、プロバイダが情報開示を拒否した場合、被害者は裁判所に対して発信者情報開示命令申立やデータ保全の仮処分をすることになります。
そのプロバイダが情報開示を拒否する可能性が高い場合には開示請求自体を省略して直ちに裁判所に命令申立をするケースも少なくありません。
この命令により、投稿者の氏名や住所、IPアドレスなどの情報が開示され、被害者は加害者に対して損害賠償請求などの法的手続きを進めることが可能になります。
命令の効果としては、被害の回復だけでなく、将来的な中傷行為の抑止にも繋がります。

ちなみに最近まで放送されていたテレビ東京金曜夜8時からのドラマ「しょせん他人事ですから 〜とある弁護士の本音の仕事〜」の第1話「主婦ブロガー炎上編」(2024年7月19日、7月26日放送)では、ネット中傷による被害を受けた主婦ブロガーが、ネットやSNSトラブルを得意とする弁護士に依頼することで発信者を特定でき、損害賠償請求の手続きを進めるまでの話が放送されました。
テレビの本放送は終了しましたが、原作の漫画は電子書籍などでも読めますので、発信者情報開示請求の手続きや流れを知りたい方は、読んでみてください。
https://www.hakusensha-e.net/store/group/shosenn

最後に、ネット中傷に対して法的対応を取る際には、以下のポイントに注意が必要です:
- 証拠の確保:スクリーンショットや投稿の保存など、後々証拠として利用できる情報を確実に記録しておくこと。
- 弁護士との相談:インターネットに詳しい弁護士に早めに相談し、法的手続きを適切に進める。
- 迅速な対応:中傷が発生したら、早急に行動を起こし、被害を最小限に抑える。
ネット中傷に悩まされている方は、これらのポイントを押さえて、必要な法的手続きを進めることをお勧めします。
いつ何処でネット中傷されるか分からない時代ですが、これらの法的対応によって、万が一被害にあった際も「加害者を突き止められる」ことを知っておくことで得られる安心感は、事業をする上でも心強いものではないでしょうか。
実際に法的対応が必要となった際には、専門家に相談し、迅速な対応をしていくことが重要となります。
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