退職して起業を目指す方へ、退職企業との関係と起業準備の法的ポイント

近年、副業やフリーランスなどの多様な働き方が見られるようになり、退職して起業を目指す方も増えてきました。
そのような方にとって、ビジネスを成功させるためには綿密な準備が必要です。

特に、現職企業との関係を適切に整理し、起業後の法的リスクを最小限に抑えるための対策が重要となります。
今回は、円満退職と起業準備のための法的ポイントについて詳しくご説明します。

(1)競業避止義務と秘密保持義務の確認

在職中に知りえた勤務先の機密情報についての守秘義務の有無や退職後の競業行為が制限されるかどうかは、雇用契約書や就業規則に定められていることが多いため、まずはそれらを確認しましょう。

•競業避止義務 
一定期間、同業他社や類似ビジネスへの関与を禁止する条項がある場合があります。
退職する会社に対してこの義務を負っている場合に、その会社に無断で競業すると損害賠償請求や差止請求を受けるリスクがあります。
ただ、職業選択の自由(憲法22条1項)により、在職中の役職、職務内容や給与・退職金の額などとの見合いによっては、競業避止義務が規定されていてもその効果が認められない場合があります。
役員や幹部社員で特別な処遇を受け、退職金も相当額に上る場合には、競業避止義務が一定期間有効と認められる可能性があります。

•秘密保持義務 
現職企業の営業秘密や顧客情報を持ち出すことは法的に問題となる可能性があります。
特に「不正競争防止法」により、重要な営業情報の持ち出しは厳しく制限されていますし罰則(10年以下の拘禁又は2000万円以下の罰金)の対象となります。
対象となる営業秘密とは、原則として①公知情報ではないこと、②保護すべき価値があること、③秘密として管理されていること、となります。

起業の際には、これらの義務を遵守しつつ、現職企業の知的財産や顧客情報を利用しないよう注意が必要です。

(2)円満退職のための手続き

起業準備に集中するためにも、スムーズな退職が望ましいです。
そのためには以下の点に注意しましょう。
     
•退職届の提出
労働契約の解除に必要な期間(通常1か月前)を確認し、適切なタイミングで退職届を提出しましょう。
法律上は、労働者は2週間前までに退職申出をすれば退職可能なので、あくまで円満に退職したい場合の話です。

 •業務引継ぎの実施
円満な退職のために、後任者への引継ぎを丁寧に行い、トラブルを未然に防ぎましょう。

 •社内ネットワークや資料の取り扱い
退職前に不適切なデータ持ち出しを行わないよう注意しましょう。

(3)誓約書にサインすべきか

会社によって、退職時の秘密保持誓約書へのサインを求められることもあります。
内容にもよりますが、特に競業避止義務が規定されている誓約書については、場合により起業後の事業の支障となる可能性がありますので、サインの前に弁護士に相談されることをお勧めします。

1) 会社設立の基本的な法手続き

起業形態によって必要な手続きが異なります。

  • 個人事業主:開業届を税務署に提出
  • 法人(株式会社・合同会社):定款作成、法人登記、税務署・都道府県への届出

それぞれ税制や責任範囲が異なるので、自分に合った形態を選びましょう。

(2)許認可の確認と取得

業種によっては事前の許認可が必要になります(例:飲食業、人材紹介業など)。
取得に時間がかかる場合もあるので早めの準備が必要です。

(3)契約書の準備

起業後に発生する取引を円滑に進めるため、商品・サービスを販売・提供したり、第三者に業務を委託するなどが見込まれる場合には、予めそのための標準となる契約書を準備しておきましょう。

業務委託契約書サービス契約書売買契約書秘密保持契約(NDA)など

ネット経由で、商品を販売したり、サービスを提供する場合には、販売規約、サービス利用規約等の規約を作成して、ホームページ等に掲載しておくことをお勧めします。

適切な契約書・規約を準備して法的トラブルを未然に防ぎましょう。

(4)商標・知的財産の保護

事業名やロゴを使用する場合、商標登録を検討しましょう。
また、HP、広告等に使用するコンテンツや文章を不当に流用されないよう著作権をしっかり保護しましょう。

  • 商標登録:ブランド名やロゴを保護するため、特許庁に商標出願を行う。
  • 著作権表示:自社制作のコンテンツ(ホームページ、資料、動画など)の表現を守る。

(5)資金調達と財務管理

起業には資金が必要となるため、調達方法を検討しておきましょう。

自己資金、融資(日本政策金融公庫など)、補助金・助成金など

特に、補助金や助成金は返済不要の資金となるため、活用できる制度を調べておきましょう。
また、契約書の内容には必ず目を通し、想定外の責任(担保提供、保証の提供など)が規定されていないことも確認しておくべきです。

(6)労務管理と 人材採用

従業員を雇う予定がある場合は、労務管理の基盤を整えておきましょう。

  • 雇用契約書の作成
  • 社会保険・労働保険の手続き
  • 就業規則の整備(従業員10名以上の事業所では必須)

起業は大きなチャンスですが、法的な準備を怠ると後々トラブルに発展する可能性があります。
事業が軌道に乗り忙しくなってからでは、これらの手続きを後に回しがちになるため、事前に準備しておくことをお勧めします。

特に、現職企業との関係整理(競業避止義務・秘密保持義務の確認)スムーズな退職手続き、そして起業後に必要な法的準備をしっかり行いましょう。

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