法人化したから安心…ではありません。会社法429条にご注意を

法人にしたし、何かあっても責任を負うのは会社。

個人保証していない限り、自分が個人責任を追求されることはないですよね。
法人代表者や法人成りを考えておられる方から、こうした声をときどき耳にします。
たしかに、法人化すれば「個人と会社は別主体」というのが原則です。
しかし、現実には、代表者自身が“個人として”責任を問われるケースがあるのです。
その根拠になるのが、「会社法429条」。
あまり聞き慣れないかもしれませんが、法人化している経営者やこれから法人化しようとされている方にとっては、知っておきたい規定です。
今回は、会社法429条の基本的な仕組みと、実際に起こりうる場面、そして事前にできる備えについてご紹介します。

会社法第429条第1項
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
この規定では、会社の取締役や代表者が
- 明らかに不適切な判断をしていた
- 注意すべき義務を怠っていた
- 注意義務違反により第三者に損害を与えた
等の事情があるときに、取引先や関係者など”第三者”に対して、会社ではなく個人が損害賠償責任を負うとされています。
この規定は、株式会社の役員だけでなく、合同会社等の持分会社の業務執行社員にも準用されます(会社法597条)。

▶ ケース①:無理な貸付けが裏目に
A社の代表者が、赤字続きの関連会社に対して、明らかに回収見込みのない貸付けを実施。
その後、関連会社は倒産し、A社も信用不安から資金困難に。
支払を受けられなくなったA社の債権者が「代表者による貸付は無謀で不合理であった」「注意義務違反」として、A社代表者個人に損害賠償を請求。
→ 不合理な貸付けが「重大な過失」によるものであったと判断される可能性があるケースです。
▶ ケース②:安全対策の不備による事故
建設会社B社が建築現場における安全対策を怠っていたため、B社の従業員であった作業員が転落し重傷。
被害者が、B社に加えてB社の代表個人に対しても損害賠償を請求しました。
→安全対策を実施していなかったことが、B社代表者の「任務懈怠」とされる可能性があります。
▶ ケース③:取引先から“最後の請求”として
商品販売会社C社の営業担当役員Dが架空売り上げを計上していたことが露見し、銀行からの融資がストップ。
資金繰りに行き詰って倒産。
同社に商品を納品していた取引先が、C社の代表者であるEに対し、「社内のチェック体制を整備せず架空売り上げを許して会社を倒産させたことは代表者の監督義務違反」「それによって損害を受けた」として、会社法429条に基づきE個人に直接損害の賠償を請求。
→ 経営者としての注意義務違反が問われたケースです。
こうした事例を見ると、「会社の経営上の行為でまさか自分個人まで賠償請求を受けるとは」という驚きの事態は決して他人事ではありません。

法律で制度として決まっている以上、「知らなかった」では済まされないのが、法律の怖いところです。
他方で、日々の経営の中で意識できること・できる備えも、たくさんあります。
✅ 判断の根拠は記録に残す
メールや議事録など、判断の経緯を「見える形」で残しておくことで、あとから「合理的な判断だった」と説明できます。
✅ 専門家と定期的につながっておく
弁護士や税理士など、相談できる相手を日頃から確保しておくと、いざというときに慌てずに対応できます。
✅ 社内体制を整える
安全管理や情報共有のルールを明文化し、従業員と共通認識を持つことも「任務懈怠」を防ぐうえで重要です。
✅ D&O保険(役員賠償責任保険)の活用
万が一に備え、個人が損害賠償請求を受けた場合の補償がある保険もあります。

また、会社法429条は「訴えられる側」だけでなく、「訴える側」としても活用できる場合があります。
たとえば、取引先代表者のずさんな経営で損害を受けたのに、相手会社が倒産してしまい会社に請求できなくなった場合などでも、相手会社の代表者個人に対して損害賠償請求する選択肢として、429条が使われることもあるのです。
会社法429条は、「会社だけが責任を負うが当然」と思われがちな場面でも、条件が揃えば、代表者個人にまで責任を及ぼす強力な規定です。
とくに、法人成りして間もない時期は、法人と個人は別人格という原則にのみ意識が向きがちですが、経営者個人にもそれ相応の責任が伴うということはぜひご認識いただけるとよいでしょう。
それゆえ、契約書レビューや社内ルール・業務フローといった“見えないインフラ”の整備が、何よりのリスク対策になります。
年に一度は、契約書や社内のルール・体制を見直す“法務体制の定期点検”を行うことをおすすめします。
「問題が起きる前に備える」ことこそ、経営者にとっての大切な責任のひとつです。

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