個人事業主も無視できない!弁護士がおススメするカスタマーハラスメント対策
東京都議会で全国初の「カスタマーハラスメント条例」が成立し、2025年4月から施行される予定です。
この条例ではカスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」といいます。)を禁止するとともにカスハラ防止のための事業者の責務を定めています。
個人事業主や中小企業等がカスハラの対応に苦慮するケースは増加しており、経営者や従業員が精神的・経済的な負担を強いられることも少なくありません。
カスハラによる業務への支障を防止し良好なビジネス環境を維持するためには、その適切な対策を知ることが必要です。
そこで、今回は、近年著しく増加傾向にあるカスハラとその対策についてお届けします。

カスハラとは「顧客等から就業者に対する著しい迷惑行為であり、就業環境を害するもの」であり、具体的には顧客が企業の従業員や個人事業主に対して、暴行・脅迫などの違法行為や不当な要求や威圧的な態度を取る行為を指します。
ビジネスの現場では、顧客からの正当な要求やクレームは正常な取引行為の一環として認められますが、上記のような違法・不当な行為を伴う場合にはカスハラとして禁止され、事業者は適切な対策をとることが求められます。

近年、カスハラの事例が増加しています。
厚生労働省が行った、令和5年度の「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間ではパワハラ、セクハラに続いて、カスハラ(顧客からの著しい迷惑行為)の相談が多く(図表1)、相談件数の推移を見ると、カスハラが特に増加傾向なのが分かります(図表2)。



カスハラには以下のような事例があります。
皆さんのなかにも、似たようなケースに遭遇した経験を持たれている方もいるのではないでしょうか。
①過剰な返品要求:商品に問題がないにもかかわらず、長期間経過してから返品を要求し、応じない場合にSNSなどで悪評を広める。
②営業時間外の対応強要: 営業時間外や休日に連絡をして、即時対応を強要し、応じない場合には悪いレビューを口コミサイトなどに投稿する。
③無理な値引き要求:事前に合意した価格にもかかわらず、支払い直前になって値引きを強要し、断るとクレームや訴訟をちらつかせる。
④個人情報の不当要求:従業員に対し個人的な恋愛感情などから、サービス提供に必要のない個人情報の提供を強要し、これを断ると「購入しない」、「注文を取り消す」などと脅す。
⑤繰り返しの不当な要求:ちょっとしたミスなどをあげつらって、無理な要求や注文内容の変更依頼などを繰り返し、業務に支障を与える。
⑥脅迫的なコミュニケーション:メールや電話での暴言、脅迫的な言葉遣いにより、精神的に追い詰める。
特に、個人事業主や中小企業等では、イレギュラーな顧客対応に苦慮するケースが多く、精神的・経済的な負担が大きくなっています。
事業主にとって、顧客との関係はビジネスの命綱です。
しかし、カスハラによって業務の効率が落ちたり、メンタルヘルスに悪影響が生じることもあります。
SNSやオンラインでの匿名のクレームなどを伴うこともあることから、長期的なビジネスの安定のためにも適切な対応策を講じる重要性が一層高まっています。

カスハラ防止条例では、事業者の責務として、
- 従業員がカスハラを受けた際には速やかにその安全を図るとともに、カスハラを行った顧客に対して中止の申し入れ等の適切な措置を講じる努力義務
- 事前のカスハラ予防措置として、従業員の相談窓口、クレームの複数人対応、カスハラ対応マニュアルの整備・研修の実施努力
が規定され、詳細は東京都「カスハラ防止ガイドライン」を参照することになっています。
そこで、具体的に、個人事業主として、カスハラをどのように防止し実際にカスハラを受けた場合にどのように対応するかについて考えてみましょう。
(1)契約やサービス内容を明確に
契約やサービス内容を明確にするためには、まず顧客との間で文書による契約書面を作成し双方が理解しやすい形で取り交わしておくことが重要です。
契約書には提供する商品・サービスの種類・範囲、数量、料金、支払方法、納期、返品・キャンセルのポリシーなど、具体的な条件を明記しましょう。
曖昧な表現は避け、できる限り事前に専門家に内容を確認してもらうことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
個人との取引やオンライン取引では、その都度契約書を取り交わさないケースも見受けられますが、そのような場合でもホームページなどに契約条件を記載した「約款」を掲載し、その内容に承諾してもらってから申込を受け付けるという流れを作ることが重要です。
(2)記録を取る
顧客とのやり取りは、できる限り書面やメール、メッセージアプリなどで行い、記録が残る形式にすることが大切です。
電話や対面でのやり取りは、後にその内容を確認、証明できるように、録音したり、日時、要点をメモする、あるいは顧客にやり取りの結果をメールで送っておくことで記録として残すことができます。
顧客からの要求や変更依頼があった場合にも、その都度書面で確認することで、後からの「言った」「言わない」といった問題を回避できます。
記録が残っていれば、万が一トラブルに発展した場合に証拠として活用でき、あなたが適切に対応したことや相手のカスハラの事実を証明することができます。
(3)法的なサポートを活用
顧客とのトラブルが発生した際、弁護士や法務専門家に相談することで、適切な対応策や法的なアドバイスを受けることができます。
特に、脅迫や不当な要求が繰り返される場合、警告文の送付や法的措置を検討することが効果的です。また、事前に弁護士に契約書やサービス条件を確認してもらうことで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
さらに、弁護士保険に加入しておくと、法律相談や万が一の訴訟に対する費用の負担を軽減することができます。
法的サポートを適切に活用することで、精神的な負担を軽減し、顧客との対立を法に基づいて冷静に解決しましょう。
イレギュラーな顧客対応により、業務の効率が落ちたり、心身に影響が生じるなど、ハラスメントが及ぼす悪影響はときに深刻です。
社内に対応体制のない中小企業や、一人で業務を回している個人事業主にとっては、トラブルが発生した際に弁護士などの専門家に相談できるようにしておくことで、精神的な負担を減らし冷静な対応が可能となるでしょう。
契約書や約款も、専門家に相談の上作成しておくことで、トラブルを未然に防ぐ心強い存在となります。
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