顧客からのクレーム!事前準備と適切な対応を押さえておこう

こんにちは。

田園都市線沿線・地域密着型法律事務所、たまプラーザBizCivic法律事務所の弁護士 木村俊樹です。

事業を営む上で、クレームを完全に避けることは難しいものです。

東京都が2019年に実施した調査によると、実際に、クレーム(苦情)を受けたことがある事業者は約3割(2019年調査)にのぼり、特に小売業では4割近くの事業者が苦情対応の経験を持っています。

そもそも、「クレーム」とは、企業や店舗などの事業者に対して何らかの要望をすることです。

事業者はクレームに対面したとき、どう対応すればよいのでしょうか?
どこまでクレームを受け入れ、どこから先は毅然と拒否すべきなのでしょうか。
クレーム対応には、難しい判断、線引きが求められます。

そこで今回は、クレームの種類とその種類に応じた対処法をお伝えしていきます。

クレームは、大きく2種類に分けられます。
良いクレーム」と「悪いクレーム」です。

良いクレーム」とは、事業者側に何らかの落ち度があったことを伝え、被った損害の賠償などの補償を求めることです。例えば、お店から購入したものに不良品があったため、その交換を求めることは、「良いクレーム」にあたります。

これに対し、事業者側に何ら落ち度がない、又は些細な落ち度があったに過ぎないにも拘らず、執拗に補償を求めたり、不相当な要求をすることを「悪いクレーム」と呼びます。

良いクレームに対しては、迷惑をかけたことを謝罪し、適切な補償(品物の交換や損害の賠償など)や今後の再発防止策の約束など、誠実に対応する必要があります。

これに対して、悪いクレームについては、こちらに落ち度が無い、或いは補償をするほどの落ち度はない訳ですから、先方の要求にそのまま応じる必要はありません。

ところが、この線引きを誤ってしまうと、良いクレームをしたお客様の神経を逆なでして二度と購入をしてもらえなくなったり、クレーマーに毎日のようにお店に押しかけられたり、電話やメールで不当な言いがかりを受けたり、インターネット上で悪評を書き込まれたりしかねません。

(株)エス・ピー・ネットワークス「カスタマーハラスメント実態調査」(2021年)によると、直近2年で悪質クレームは増加しているかという問いに対し、約3割が増加していると回答しています。

さらにこの調査では、悪質クレームが増加している要因として、次のようなものが挙げられています。

  • 過度な報道によりサービスへの要求度が上がり、権利主張のおかしな人が多くなっている
  • 新型コロナの影響
  • 在宅の長時間化で商品の使用頻度が増えたこと
  • ネット等の操作方法が複雑でイライラしてしまう原因となっている
  • 待つことへの忍耐力の低下
  • ストレスのはけ口として購入元や取引先に執拗なクレームを言ってくる人が増加

クレームには「良いクレーム」と「悪いクレーム」があるとお伝えしましたが、上記のような調査を見ると、たとえ「良いクレーム」だとしても、対応を一歩間違えると「悪いクレーム」となり、炎上する可能性があることがみえてきます。

例えば・・・

  1. 事実を確認せずにとりあえず謝罪して済ませようとする
  2. 自社のミスや誤りに比べて過小又は過大に謝罪する
  3. 相手に実害がないのに安易に金銭解決しようとする
  4. 些細なミスを突かれて反論できなくなり言いなりになる
  5. 一人で対応し精神的に追い込まれる

クレームは突然発生するため、慌てて誤った対応をした結果、事態を悪化させることは避けなければなりません。

そこで、クレームの対応をシミュレーションするなど事前に準備をしておくことが望まれます。

では、事業を行う上で、クレーム対応はどこまで準備しておく必要があるのでしょうか?

事業者は、必ずお客様と契約を締結した上で、商品やサービスを提供します。
この契約上の義務には、「本来の義務」と「付随的な義務」があります。

本来の義務」とは、契約により当事者が負う本来の義務のことで、例えば、お店がお客様に商品やサービスを提供したり、お客様がお店に代金を支払ったりする義務がこれにあたります。

付随的な義務」とは、本来の義務を履行して契約の目的が達成できるよう、契約相手のために行動すべき信義則上の義務のことで、具体的には次のような義務に分類できます。

  • 説明義務(契約条件,商品やサービスについての情報提供義務)
  • 安全配慮義務(商品やサービスの提供が相手に危害を与えないよう配慮する義務)
  • 保守義務(一定期間の商品メンテナンスや保守部品の提供などに対応する義務)
  • 苦情対応義務(取引に関する苦情に誠実に対応する義務)

このように、「苦情対応」、つまり、クレーム対応は契約上の義務ということになります。

とすると、事業者としてクレームを受けた場合には、それがどのような内容であれ、まずは誠実に対応することが求められます。
例え、変なクレームだと思っても、これを無視したりぞんざいな対応をしたりすると、契約違反となる可能性が出てきます。

だからといって、先ほど述べた通り、どんな要求にもそのまま応じなければならないわけではなく、裁判例でも、「一般的に合理的(常識に照らして妥当)と判断される程度で対応すれば良い」とされています。
不可能または常識に照らして困難、不相当な対応は、一切する必要がありません。

「良いクレーム」と「悪いクレーム」の線引きはなかなか難しい場合もあるのですが、次のように段階を確実に踏むことで、良いクレームには誠実な対応をしつつ、悪いクレームを排除することができるようになります。

段階1 問題を確認する
段階2 対応を確認する
段階3 事実を確認する
段階4 問題を解消する
段階5 適切に回答する
段階6 悪いクレームを排除する

それぞれの具体的な対応方法については、次回のメルマガでお伝えします。

クレーム対応は、起きてから考えるのでは遅いのです。
事業者の皆様には、ぜひ一度、クレームを受ける前に、自分の事業ではどんなクレームを受ける可能性があるのか、そしてそれらのクレームに対してどのように対応するか、をシミュレーションしておくことをおすすめします。