まさか私が?!悪いクレーマー、営業妨害、反社会的勢力に出会ったら
こんにちは。
田園都市線沿線・地域密着型法律事務所、たまプラーザBizCivic法律事務所の弁護士 木村俊樹です。
事業を営む上で、クレームを完全に避けることは難しいものです。
前回のメールでは、クレーム対応の基本的な手順をお伝えしました。
今回は、そんな通常の手段では対応できない「悪いクレーマー」の見分け方やその他の営業妨害、さらに万が一、反社会的勢力に出くわしたときの対処法などをお伝えしていきます。
「悪いクレーマー」を見分けるためには、まずは常識で判断しましょう!
というと身も蓋もないですが、実際に常識に照らしてみておかしいなと思ったら、悪いクレーマーの可能性を疑ってみましょう。
そのうえで、次の「悪いクレーマーの該当性チェック」を利用することで、悪いクレーマーを見抜きましょう。
【悪いクレーマーの該当性チェック】
- 苦情の内容が不当である(事実に反する)
- 損害がない、又は軽微である(いちいち苦情するに値しない)
- 要求内容が問題の程度に比べて過大である
- 苦情回数が極端に多い(連日メール等でクレームをつけてくる、など)
- 土下座を要求する
- 謝罪の状況を撮影・録音しネットに公開する
- 問題がないまたは軽微なのに、取引先や監督官庁への通知を持ち出す
- 常識的な対応で解決しない
目安としては、1つでも当てはまれば黄信号で要注意、2つ以上当てはまる場合には赤信号で一度弁護士や警察に相談することを考えましょう。
ちなみに、悪いクレーマーにもタイプがあります。
- 性格的な理由から悪いクレーマー化
- 精神的な疾病などから悪いクレーマー化
- お得感を求めて悪いクレーマー化
タイプは違いますが、悪いクレーマーであることに変わりはないので、基本的な対応はみな同じでよいです。
基本的な姿勢は、要求を断る︕しかも文書で断る!というもの。
法律上も契約上も、一切応じる必要はありません。
こちら側に問題がある場合でも、問題を解消して報告するだけで大丈夫です。
その他、執拗な電話や来訪への対処としては、弁護士名での内容証明郵便による警告や、電話や来店を禁止する裁判所の仮処分命令の申立などが考えられます。
また、不当な支払請求、暴力・暴言、土下座要求などに対しては、動画撮影や録音等により証拠化し、刑事告訴(強要罪,恐喝罪など)することが考えられます。
その他の営業妨害としては
- 無言電話や迷惑電話
- なりすまし注文
- 代引き取引の引取拒否
- 大量キャンセル
といったことが考えられます。
このような営業妨害は、民事上、不法行為又は債務不履行による損害賠償請求の対象となり、刑事上は、偽計業務妨害罪(刑法233条後段)に該当します。
これらの行為についても、録音したりメモを取ったりメールを保存するなど、できるだけ証拠を残したうえで、警察や弁護士に相談しましょう。
「反社会的勢力」とは
「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義されています。
(犯罪対策閣僚会議「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」から)
具体的には暴力団、暴力団員、暴力団関係企業(いわゆるフロント企業)、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能集団などがこれにあたります。
※「ゴロ」とは、不正利益を求めて暴力等により市民生活に不安を与える者、いわゆる「ゴロツキ」のこと。
彼らは、法的な責任を超えた多額な金銭の支払いなど、本来応じる必要のない要求を通そうと暴力や脅迫、威圧的な行動をしてきます。
以前は総会屋、地上げ屋などがビジネス界にも堂々と存在感を示していましたが、後述の暴対法などの法施行、法改正を経て、むしろ地下に潜りその存在が分かりにくくなっているといわれています。
反社会的勢力はどこに︖
反社会的勢力の見分け方としては、
- 言葉遣い、言動、身なり、所持品、自動車など
- 取引開始の際に「反社条項」にサインを求めて反応を見る
- 会社であれば履歴事項全部証明書で本店所在地が頻繁に変わっていないか、役員構成や変更状況などを確認する
- ネット検索などでネット検索結果から、役員、構成員、取引先、友人などについても更に情報を収集する
- ブログやSNSで発信している情報を確認する
- 銀行取引(口座引き落とし、振込など)が可能か(反社会的勢力と認定されている場合には銀行口座を開設することができません)
といったポイントに注意することが有効です。
そして、反社会的勢力である可能性が高い場合には、その会社/人物について、警察に照会を依頼しましょう(後述)。
反社会的勢力対応に関する法令状況
法律および条例の仕組みには、次のようなものがあります。
- 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)
- 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(政府)
- 暴力団排除条例(各地方自治体)
(神奈川県暴力団排除条例の例)- 事業者の暴力団活動への関与禁止、暴力団排除への支援の努力義務
- 契約時の暴排条項(暴力団排除条項)制定の努力義務
- 利益供与、助長行為の禁止(暴力団との取引等の禁止)
- 公安委員会に対する資料提供義務
- 違反事業者に対する勧告、氏名等の公表
反社会的勢力への対応
対応の際の留意点として、次のようなポイントを押さえてください。
- 絶対にお金を払ったり、取引をしないこと
- 必ず複数人で対応
- 自社内や相手方事務所ではなく、オープンな場所で対応
- 録音する
- 即答はしない(「お求めの内容は持ち帰って検討します」と答える)
また、警察には、以下のような反社会的勢力への対応を求めることができます。
- 照会依頼書(相手が反社会的勢力か否かの照会を求める)
- 所轄警察署組織犯罪対策課への相談
- 警察官による保護の請求
- 中止命令の請求(暴力的な要求行為に対する行政命令)
それから、民事対応として、弁護士に相談することもできます。
- 暴排(反社)条項に基づく契約解除(内容証明郵便)
- 占有禁止、占有移転禁止、接近、架電禁止等の仮処分申立
- 建物明渡請求、損害賠償請求等の訴訟提起
暴排条項の活用
あなたのビジネスを「反社会的勢力」の魔の手から守るためにも、万が一に備えて、暴排条項を活用しましょう。
- 相手の反社該当チェックに役立つ
- 相手が反社であることが判明すれば契約解除できる
- 詐欺罪で刑事告訴、民事で損害賠償請求することができる
- 企業、事業のコンプライアンス体制をアピールできる
暴排条項は、契約書や取引約款への規定化しましょう。
契約書や規約がない場合には、HP掲載や事務所内の掲示でも効果があります(契約書を交わさない場合に有効)。
会社の場合、定款での規定も牽制として有効です。(金融機関等へのアピール要素にも)。
だいぶ長くなりましたが、今回は、悪いクレーマーの見分け方やその他の営業妨害、さらに万が一、反社会勢力に出くわしたときの対処法などをお伝えしました。
次回は、ネット社会である現代に急増している、ネット中傷への法的な対応をお伝えします。