子供や親族に事業を譲る?そのとき知っておきたいこと

前回は、法人の事業承継についてお届けいたしました。今回は、個人の事業承継についてお届けいたします。

飲食店、小売店、サロン、士業などなど、個人事業主としてお仕事されている皆様、事業承継なんて関係ないと思っていませんか?

お客様がいる、取引先がいる、従業員がいる・・・元気で、順調に仕事が回っているときは良いですが、もし自分が病気や怪我、家族の事情や年齢で仕事ができなくなったら?

せっかく立ち上げて軌道に乗っている事業をそのまま畳んでしまうのは惜しいですし、せっかくご愛顧いただいているお客様や取引先にもご不便をかけることになりますよね。

特に個人の事業承継には法人の事業承継よりも時間と手間がかかることが一般的ですので、そのような時に備えて、予め事業承継の準備をしておくことをお勧めします。

事業承継は、簡単に言うと今ある事業を他の人に引き継ぐこと。

事業承継を行うことで、自分が事業を経営できなくなってもその事業は残り続け、さらに成長することが可能になります。

個人の事業承継においては、事業を構成する資産(人、経営資源、資産)を後継者に譲渡し、経営権を譲り渡すことになります。

1.経営権

事業経営をする権利を「経営権」といいます。
現事業主の廃業と後継者の開業によって、経営権を承継します。
ここで重要なのは、事業承継後に現事業主が引き続き同種・類似の事業を行なうことを認めると、たとえブランドや屋号が違っても経営権を完全に承継したことにはならない、ということです。
そこで、現事業主は、同種・類似の事業を行なわない義務(競業避止義務)を負うことになります。

2.経営資源

事業主が持つ信用・ノウハウ・顧客・従業員・取引先などを「経営資源」といいます。
事業主が持つ技術やノウハウ、顧客や取引先との信頼関係を軸に事業運営していることが多い個人事業主。
そのため、事業を引き継ぐためには、そのような無形の経営資源を計画的に後継者に譲り渡していくための、「経営者の育成」が必要になります。

3.資産

不動産や機械、オフィスの備品といった固定資産、売掛金や借入金のような債権債務などが有形・無形の「資産」です。
固定資産は、現事業主やその親族が個人で所有しているケースが多いため、それぞれを贈与、相続や売却などの方法によって、後継者に引き渡す必要があり、場合によっては税負担が生じることがあります。 
そのため、個人版の事業承継税制が時限法として施行されており、固定資産の承継等については一定の条件で贈与税などの支払が猶予される場合があります。
詳しい内容については、国税庁のHPを参考にし、又はお近くの税理士にお問い合わせください。

国税庁のHP https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/kojin.htm

財産を譲渡・売却する場合、契約をその都度締結したり、書類を作成したりする必要があります。
理屈の上では、一つ一つの資産毎に契約が必要になるのです。

物的資産の場合には、まとめて契約で譲渡、売却できる場合が通常ですが、売掛金、預貯金等の債権は債務者に対する譲渡通知が必要になりますし、借入金などの債務については債権者の同意が必要になりますので難しい交渉となるのが通常です。
従って、事業承継の準備をするにあたっては、予め事業債権や事業負債の整理に着手しておくことが望ましいでしょう。

また、税務署には事業を開始・廃止する際に届け出を提出する必要があります。
更に、従業員を雇用している場合には、社会保険の手続きも必要です。

財産の譲渡方法には贈与、相続、売却などがありますが、どれが最適かは状況によります。

相続が選択された場合には、他の相続人の相続権、遺留分との関係も考慮する必要がありますし、生前贈与など相続税に関する検討も必要です。
したがって、弁護士、税理士などの専門家と早めに相談することが賢明です。

以上みてきたように、個人事業の承継は、法人よりも手間がかかるものです。

しかし、飲食店、物販、サービス業などの特にBtoCビジネスでは一から事業を始めるよりも成功している事業を承継したほうがスムーズに事業を立ち上げることができますし、地元で愛された商品、サービスを残すこともできます。

早めに専門家に相談され、ぜひ皆さんの素敵な事業を末永く円滑に存続させられるよう願っています。


次回は、事業承継について相談されることも多い不動産業界の経営者様との対談を予定しています。

たまプラーザBizCivic法律事務所では、事業承継のお手伝いをしています。
わからないことがある場合などは、お気軽にご相談ください。