自由な働き方として人気の「フリーランス」が、安心して働ける環境とは?

こんにちは。

田園都市線沿線・地域密着型法律事務所、たまプラーザBizCivic法律事務所の弁護士 木村俊樹です。

「新しい働き方」として脚光を浴びているフリーランス。

しかし、法整備が追いつかない状態が続き、フリーランスの立場の弱さが問題視されています。

そこで、政府はフリーランスの実態調査を進め、2020年にその結果をまとめた『フリーランス実態調査』を公開しました。

この実態調査によって明らかになったのが、取引先(特に事業者である顧客)との「トラブルの多さ」です。

事業者から業務委託を受けているフリーランスの約4割が取引先と何かしらのトラブルを経験したと回答しており、政府内でも対応の必要性が認識されました。

今回は、このような背景から作られた「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます)について解説します。 

ガイドラインでは「フリーランス」を、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者としています。

法人成りしているか否かに拘わらず、個人でそのスキルを活かして業務を請け負っている人がその典型例となります。
デザイナー、プログラマー、講師、保守技術者など様々な職種で人を雇用せず独立して仕事をしている個人です。

フリーランスは、顧客との間で「業務委託契約」を締結して仕事をしますので、原則として、顧客とは雇用契約の関係になく、労働基準法などの労働関係法令が適用されない(つまり法律上の「労働者」としての保護を受けない)ことに留意が必要です。

雇用契約を結ぶということは「雇われる」ということですので、業務の指示を拒否できませんし、業務内容や遂行方法について具体的な指揮命令を受け、勤務場所や勤務時間が指定され管理された働き方になります。

その代わり、労働法規によって、労働時間、休日、有給休暇、賃金支払、解雇制限など様々な保護を受けることができます。

これに対して、フリーランスが顧客との間で締結する業務委託契約のもとでは、そういった客先からの個別具体的な指揮に服しない代わりに、法律上の保護を受けることができない働き方になります。

背景① フリーランス人口の増加

昔からフリーランスとして働く人は一定数いました。

しかし、ここ最近フリーランス人口がどんどん増加しており、もはやマイノリティではなく「会社員」と並ぶ働き方のカテゴリーの1つになりつつあります。

総務省の労働力調査(2022年平均)によると、雇用者(公務員、会社員その他誰かに雇用されている人)の数は2022年の時点で約6700万人でした。

これに対して、フリーランスの数は、2015年の時点では約900万人でしたが、2021年になると約1,500万人にまで増えています。

参考情報:新・フリーランス実態調査 2021-2022年版(ランサーズ株式会社)

仕事の形として一大勢力となりつつあるフリーランスの労働環境を整備し保護することが急務となっています。

背景② ギグエコノミーの拡大

ガイドラインの策定が急がれた背景には、ギグエコノミーの拡大も関係しています。

ギグエコノミー(Gig Economy)とは、インターネット上のプラットフォームなどでやり取りされる短期的な労働市場のことを指しています。

ウーバーイーツの配達をイメージしてもらうとわかりやすいと思いますが、ほかにも、ランサーズやクラウドワークスなどクラウドソーシングサイト上での、短期・単発取引なども含まれます。

これらの契約形態も通常は、「業務委託契約」となります。
自分のスキルを活かした自由な働き方を求めて、会社を退職したり副業でギグワーカーに転じたりする人が増えてきました。

ところがギグエコノミーの拡大に伴い、ギグワーカーが不利な条件での取引を事実上強要されたり、契約とは異なる不利な扱いを受けるトラブルが増え、ギグワーカーが権利を主張しようにも「守ってくれる法律やガイドラインがない」というケースが発生するようになりました。

ギグワーカーをフリーランスと呼ぶかどうかは別として、これらの人たちを含めた労働環境の整備が必要でした。

背景③ 副業解禁の波

企業が副業を解禁したり積極的に勧めたりするようになったのが、ここ数年のこと。

副業を認めることで人材の流出を防ぐとともに、雇用維持の負担を軽減するという企業側の論理も背景にはありました。

そしてこの副業解禁の波の中で、いわゆる会社員として働きながら副収入を得る「副業系フリーランス」が増加しています。

副業をしてみることで、フリーランスの労働条件の劣悪さや未整備のまま放置されている部分に気づく人たちが増え、フリーランス保護の必要性が次第に認識されるようになった、という事情も無視できません。

背景④ 「働き方改革」「一億総活躍」「人生100年時代」スローガン

2017年から政府は「働き方改革」を主導し、いわゆる「働き方改革関連法」として、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の確実な取得、同一労働同一賃金の実現に向けた諸施策などが法制化され2019年に施行されました。

また、かつては少子高齢化を背景に、「一億総活躍」「人生100年時代」などのスローガンを掲げた政権もありましたが、現在でも、健康寿命の伸びや自己実現の要求、年金制度への不安などから、会社を退職後も末永く働きたいという方は増えており、そのような人たちが個人事業主、すなわちフリーランスとして仕事を続けるケースも増えています。

会社で正規雇用される人に対して、独立して仕事をする人が増えるにつれ、「自営業者やフリーランスの労働環境が未整備のままでは済まされない」という社会認識が共有されるようになったことが、ガイドラインの策定の背景にはあるといえると思います。


今回は「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が作られた背景をお伝えしました。

次回は、ガイドラインの内容と、気をつけるべきポイントをお伝えしていきます。