【保存版】失敗しない契約書の作り方
こんにちは。
田園都市線沿線・地域密着型法律事務所、たまプラーザBizCivic法律事務所の弁護士 木村俊樹です。
前回は、ビジネスで契約を締結する際に契約「書」を作成する必要性についてお伝えしました。
今回は、契約書を作成する際のポイントを、トラブル事例とともに解説し、契約書の「作り方」について具体的にご説明します。
少々長くなりますので、このメールはぜひ保存し、時間のある時や契約書を作成しなければならないときの参考にしてください。
まずは、契約書を締結したにもかかわらず起きてしまったというトラブルの事例を見てみましょう。
知的財産権トラブル
WEBサイトデザイン事業者Aさんは客先所定の契約書でサイトデザインを受注しました。
契約通りサイトを完成させて客先に納品したのですが、実は契約書で「成果物の著作権は全て客先に移転する」と規定されており、Aさんはせっかく自作してサイト作成に利用したキャラクターデザインを使用しないよう客先から求められてしまいました。
代金回収トラブル
ネット販売事業者Bさんは、ある客先に商品を長年継続して納入してきたのですが、あるときその客先から突然代金の入金が途絶えました。
客先の社長は「経営が苦しくて購入した品物の代金は運転資金に回して残っていない。会社は倒産させるしかない」といってひたすら平身低頭。
客先とAさんは客先の用意した売買基本契約書を締結していましたが、財務情報の定期的な開示を規定していなかったため経営悪化に気づくことができず、客先社長の個人保証や担保の条項も規定していませんでした。
Bさんは、突然の事態に資金繰りが苦しくなったものの、代金の回収はあきらめざるを得ない状況になりました。
さて、前の2つの事例で、Aさん、Bさんいずれも契約書を締結していたのにトラブルに巻き込まれてしまいました。
なぜこのような事態になったのでしょうか。
その原因は、一言で言うと、きちんと「契約書」を使って交渉していなかったことにあります。
では、彼らはどのように交渉をすれば良かったのでしょうか。
契約交渉の進め方のポイントは、「契約書」案を使って交渉することです。
そのときの「契約書」案は、できれば自分で作って相手に提示するようにします。
契約書を作る際には「その取引から得たい利益は何か?」「避けたいリスクは何か?」を見定めて、それを契約書に反映することが重要です。
「契約書」案を提示すると、たいていの交渉相手は自分に不利益と判断した条項の修正を要求してきます(例外的にチェックなしスルーの場合もありますが(笑))。
相手が要求してきた修正の中で「受け入れられないもの」「受け入れて良いのかが不明なもの」が、あなたにとって次の交渉のポイントとなります。
交渉のときには、このポイントに対する方針を決めておくことが大切です。
一切妥協しないのか? ある程度妥協するのか? どこまで妥協するか? といったことを決めておきます。
その方針は、少々抽象的ではありますが、
「相手の要求を受け入れることでリスクが生じる可能性とその影響の大きさ」
「リスクを回避するための手段の有無とその手段によるコストの大きさ」
を基準に判断します。
そして、その方針に沿って「契約書」案を修正し、提示します。
とはいえ、いきなり自分で契約書を作るのは、ハードルが高いですよね。
でも、大丈夫!
以下のステップを1つずつ踏むことで、ポイントを押さえた契約書を作ることができます。
- まず、ネット上で契約書のテンプレートをたくさん拾ってみる
- 形式面を押さえる(後述)
- 取引類型に応じて最低限必要な契約条件を盛り込む(次回詳しく)
- 更に、具体的な取引に関して押さえるべきリスクと獲得すべき利益があれば、それについて規定する(次回詳しく)
- 交渉に当たっては、獲得目標(最低限盛り込みたい条件)と譲歩できる条件を明確にする(できれば事前に)
契約書を作成する場合には、以下のポイントを押さえておきましょう。
形式面についての補足
- 記名押印(印字されている名前の横に押印)、署名(自署)、署名押印はいずれも有効。また、印鑑は認印でもよい(但し、シャチハタは製品によっては同じ印影なので避ける)
- もっとも、署名押印の信用性は高く、特に重要な契約の場合には押印に実印を用いることが多い
- 複数ページにわたる場合には全てのページに契印するか、袋とじをして綴じ代に契印を押す(差し替えを防止するため)
- 同じ契約書を複数部作成する場合には、それぞれに割り印を押す
- 印紙は印紙税法で定められた種類の契約の書面(紙媒体)に貼付する必要がある
- 不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書、継続的取引の基本となる契約書(基本契約書)、知的財産権譲渡契約書、請負契約書など
契印、割り印
「契印」
1つの契約書が2枚以上にわたる場合に各ページ毎にまたがって印(記名押印欄と同じ印)を押すこと(不正な差し替えを防ぐ)
「割印」
同じ2つ以上の契約書を作成した場合に、その文書にまたがって印を押すこと(関連性を明らかにして改ざんを防ぐ)
原則として、契約書を紙媒体で当事者数分を製本(ホッチキス綴じで十分。但し、契印をすること)して、それぞれに記名(署名)押印します。
例外として、簡潔に済ませたいとき、急いでいるときには、下記のように締結することもできます。
- FAX
記名(署名)押印したものをFAXで送信し、相手が記名(署名)押印したものをFAXで返信してもらう - 電子メール
記名(署名)押印したものをPDFでメール送信し、相手が記名(署名)押印したものをPDFでメールで返信してもらう - 電子署名
契約書データ(PDF等)にマイナンバーカード等の電子署名カードで電子署名したものをメールで交換する - 電子契約システム(クラウドサインなど)
また、締結後はコピーをとり、原本は大切に保管しておきましょう!電子契約の場合にはPDFでダウンロードして保管しておきましょう。
契約書の機能の一つめは、契約当事者の行動基準(ガイドライン)になるということです。
例えば、債務の履行のために何をすればよいかを確認するためであったり、相手の債務の履行を受けるために必要な条件を確認するためであったりします。
もう一つは、相手が債務を履行しない場合に請求(例えば、内容証明郵便による催告通知など)したり、裁判所を通じて法的手続をとるための根拠になるという機能です。
法的手続とは、具体的には支払督促(金銭債権)、訴訟提起、強制執行、破産手続などのことです。
契約終了の時期は、一般に、単発の契約(モノの売買などの契約。日常の契約のほとんどはこれ)と継続的な契約(一定期間の継続的なサービスやモノの提供を内容とする契約)とで異なります。
単発の契約の場合、原則としてお互いの債務の履行が完了したときに終了します。
例外としては、債務の履行完了前に終了(合意解除、債務不履行解除)することもあります。
継続的な契約の場合、原則として契約期間が満了したときに終了します。
例外として、契約期間を延長する場合(都度更新、自動更新)、期間途中で終了させる場合(合意解除、債務不履行解除)などがあります。
では、契約の解除はどのようなときに行なうのでしょうか。
一つは、相手が債務を履行しないとき(債務不履行解除)です。
そして、もう一つは、契約を続ける必要性がなくなったとき(合意解除)です。
なお、契約書に以下のような「任意解除条項」を定めた場合には、当事者はこの条項に基づいて解除が可能となります。
【任意解除条項の例】
「甲及び乙は、本契約の有効期間中、いつでも相手方に対する1ヶ月前までの書面による通知に基づいて本契約を解除できる」
契約解除の一般的な方法としては、債務不履行解除と合意解除があります。
債務不履行解除は、相手が債務を履行しない場合の解除方法です。
一般的には、相手に内容証明郵便などで以下のような「催告書兼解除通知」を送付し、期限までに相手が履行しない場合に自動的に契約を解除します。
合意解除は、相手との合意により解除する方法で、解除の事実を明確にするために、相手との間で以下のような「解除合意書」を締結するのが原則です。
いかがでしたでしょうか?
今回はだいぶ長くなりましたが、契約書を作成する際のポイントを、トラブル事例とともに解説し、契約書の「作り方」について具体的にご説明しました。
次回は、売買契約、業務委託契約など、契約の種別ごとに、武器になる契約書のチェックポイントと、契約書のサンプルをご紹介していきますので、お楽しみに!