ビジネスをするなら知っておきたい、契約の【基本】

こんにちは。

田園都市線沿線・地域密着型法律事務所、たまプラーザBizCivic法律事務所の弁護士 木村俊樹です。

ビジネスの様々な場面で、頻繁に「契約」が登場します。
今回は、「契約」とはそもそもなにか? そして、「契約」をビジネスで有効活用するためには、なにに注意しなければならないか?について、順にお伝えします。

ビジネスは「取引」です。そして、自分ひとりで取引をすることはできません。
当たり前のことですが、ビジネスには相手が必要ですよね。

そして、その相手から商品やサービス又はお金を受け取る、その「取引」の繰り返しがビジネスとなります。
この取引の場面で、「契約」が必要となり、皆さんも取引をする際には必ず「契約」を締結しています。

では、主な契約について見てみましょう。

● 売買(基本)契約(※)
動産、不動産、権利などの商品・製品を売買するための契約です。

● 賃貸借契約
不動産や物を貸借して、賃料を授受するための契約です。

● 業務委託(基本)契約(※)
業務を委託し、業務を受託するための契約です。

● 金銭消費貸借契約(融資契約)
金銭の貸し借りのための契約です。

● 秘密保持契約
やり取りされた秘密を守るための契約で、事業上の秘密が漏洩し不正利用されることを防ぎます。

● 約款に準拠した契約
細かくいうと、約款そのものは契約ではなく契約に関する条件で、この約款に基づいて契約が締結される場合です。
約款には、例えば運送約款(電車やバスなどの運送契約)、保険約款(保険契約)、クレジットカード会員規約(クレジット契約)などがあります。

※基本契約は、取引の都度すべての契約条項を取り決めるのではなく、はじめに各取引に共通の条件を定めておくものです。個々の取引の際には簡易な注文書と受注書(注文請書)のやり取りや個別契約書の締結だけで対応できるので、基本契約は、予め複数の定型的な取引が予定されている場合に締結されます。

さて、「契約」とは「複数者間で結ぶ法律的な拘束力のある約束」です。

「法律的な拘束力がある」ということは、契約によって相手方に対し権利を取得し、義務を負う、そして、最終的には、法律の力で権利の内容を実現できる、ということです。
契約は約束ですから、口頭でも契約は法的には有効に成立します。

例えば、魚屋で「このお刺身、ちょうだい」と魚屋のお兄ちゃんに伝えたとします。
それに対して、お兄ちゃんが「へーい、毎度ありー!」と答えれば、あなたと魚屋との間に「お刺身を対象とし値札の値段を売買代金とする売買契約」が成立したことになります。

ただ、お店で買い物する場合とは異なり、ビジネスシーンでは、口約束による契約は、原則として避けてくださいね。
その理由は、次回ご説明しますが、契約書を作成しておかなかったことで大きなトラブルになるケースがあとを絶ちません。

ご相談を受けている中でも、「契約書を作成していれば防げたのに」と思うことがよくあるので、ここはぜひ皆さんにお願いしたいところです。

では、次に契約が成立するための要件をご説明します。

少し難しい言葉になりますが、契約が成立するためには各当事者の相手に対する「意思表示」が必要とされています。

意思表示とは「法律上の効果を生じさせるための意思の表示」のこと。

例えば不動産の売買契約の場合、買主さんが売主さんに「この家を買いたいです!」という意思を表示し、売主さんが買主さんに「いいですよ、売りましょう!」という意思を表示するということです。

この意思表示には、意思能力(判断する能力+判断に従って行為する能力)の存在が必要になってきます。

先程の例では、「この家はどんな家かな?お金は足りるかな?」といろいろ検討して「よし、買おう!」と判断する能力と、その判断を「買いたいです!」と表示して相手に伝えるなど、その判断に基づいて行動する能力が「意思能力」になります。

さて、晴れて「この家を買います!」「この家を売ります!」という二つの意思表示が合致して契約が成立すると、次に契約の有効要件・効果帰属要件が必要になります。

契約の有効要件とは、契約に法律的な効力が認められるための要件のことで、次の3つの条件をクリアする必要があります。

  1. 明確であること
  2. 実現できること 
  3. 適法であること

更に、代理人や会社の代表者を通じて契約をする場合には、効果帰属要件(契約の効果が当事者に帰属するための要件)もクリアする必要があります。

どういうことかと言うと、代理人には代理権、代表者には代表権が必要になるということです。

特に、取引先が大きな会社の場合、その会社の部長や課長クラスの方が契約作業をする場合もありますが、その人に代表権があるかを確認しておいた方が良い場合もあります。

(部長クラス以上であれば基本的に代表権があると信頼してよい場合が多いですが、課長以下のクラスの方が締結する場合には念のために確認をしておきましょう。聞き方にもよりますが、この質問自体が失礼に当たることはありません)

あなたは、取引先と契約を締結することによって、取引先に対し法律上の権利を取得し、法律上の義務を負うことになります。

これは、つまり、「法律の力で権利の内容を実現できる」ということを意味します。

取引先が自分の意思でその義務を果たさない場合には、あなたは法律が定める権利実現プロセスに乗せて取引先に義務を履行させ、あなたの権利を実現することができるということです。

この権利実現プロセスは、2段階あります。

  1. 裁判段階(判決等(債務名義)を得る段階)
    契約に基づく債務の履行請求訴訟等(支払督促等を含む)
  2. 強制執行段階(判決等の債務名義を実現する段階)
    債務名義に基づいて、債務者の資産を差し押さえて競売し売却代金から配当したり、権利を債権者に移転する

法律(民法、商法など)では、典型的な契約に関するルールが決められています。

  • 民法は、売買、贈与、賃貸借、請負など13類型の契約を規定
  • 商法は、売買、問屋営業、運送取扱営業など8類型の契約を規定

従って、個別に契約条件を取り決めずに売買契約をしても、民法の規定が契約条件を補ってくれるのです。

例えば、取引条件を定めずにゲーム機器を購入した場合に、その機器に不具合があって遊ぶことができないことがわかれば、民法562条から564条までの規定によって、不具合の存在を知った時から1年以内に売主に申し出れば修理、交換、代金減額、損害賠償又は契約の解除ができます。

しかし、契約上の取り決めは原則として法律に優先します。

従って、契約書で「販売してから3か月以内に買主が不具合を申し出た場合に限り、交換に応じる」との契約条件にしておけば、その契約条件が民法の規定に優先することになります(ただし、後述の消費者契約法等に抵触していないことは必要です)。

例外としては、その取り決めが公序良俗に違反(犯罪性のある取引、反倫理的な取引など)するよう場合や、法律上その規定を守らなければ効力を認めないとされているような規定(強行規定)に違反する場合にはその取り決めは無効となります。

強行規定には、消費者契約法上の消費者に不利益な契約条項の制限規定、特定商取引法上のクーリングオフ規定、下請法の親事業者の義務を定めた規定、労基法の使用者の義務を定めた規定などなどが数多くあります。

消費者契約法や特定商取引法については、こちらを御覧ください。

最後にまとめとして、契約についてご注意いただきたい4つのポイント。

まず、第1のポイントは、冒頭にお話しした通り、契約は意思表示の合致のみにより成立する、ということです。契約書は原則として、必須ではありません。
例外)保証契約、任意後見契約など

ただ、重要な契約については契約書の作成をお勧めします(この点は次回詳しく!)

第2のポイントは、契約条件や効力の有無は、契約条項の内容によって判断されます。
タイトルだけでは必ずしも決まりません。

従って、「覚書」「確認書」なども当然に契約となりえますし、「売買契約書」と書かれた契約書が、裁判所から「請負契約書」であると解釈されることもあるので要注意です。

更に、第3のポイントとして、基本契約だけでは具体的な取引関係は生じない、ということです。
基本契約を締結すれば、次に個別契約の締結も必要です。

そして、最後のポイントとして、契約で決めていない条件については、原則として、法律が適用されますので、法律についても最低限の目配りが必要です。


少し長くなりましたが、今回は、そもそも契約とはなにか?という基礎知識をお伝えしました。

次回は、契約書を作成する必要性について、契約に関するトラブル例を紹介しながらお伝えします。